発達心理学を保育に生かそう!【エリクソン・例・幼児・児童心理学との違い】

発達心理学と聞くと、子供を対象とする学問を想像する方が多いのではないでしょうか。しかし実際のところ、発達心理学の研究対象は子供の発達だけではありません。これを聞いて不思議に思った方は、ぜひ今回の内容をチェックしてみてくださいね。一方で、子供の発達が発達心理学の重要な研究テーマであることには変わりありません。保育に役立てることができる発達心理学の知見や、保育に生かす際のポイントも合わせて紹介していきます!

発達心理学とは

人の一生にわたる心理発達を探求する学問

発達心理学は、生涯にわたる人間の心理発達に着目して研究を行う学問。発達という言葉は子供の成長を指して使われることが多いため、生涯にわたる発達という表現には違和感を覚えるのではないでしょうか。一方発達心理学においての発達は、加齢により起こる人の心身の変化を指す言葉。子供たちだけではなく、大人の私たちも日々変化していますよね。それらの変化も発達心理学においては発達の過程として捉えられます。

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発達心理学と児童心理学の違い

研究対象としている発達段階が違う

発達心理学と児童心理学では、研究対象としている発達段階が違います。発達心理学が子供から老人まで全ての発達段階を研究対象とするのに対し、児童心理学で対象とするのは児童期の発達のみ。ここで言う児童期は出生直後から小学生くらいまでを指します。また発達心理学には下位領域に位置づけられる分野がいくつかあり、児童心理学はこの下位領域の一つとして捉えられるのが一般的です。発達心理学の下位領域には、児童心理学の他にも青年心理学や老人心理学などといった領域がありますよ。

発達心理学におけるおおまかな発達段階

子供期・成人期・老人期に分けられる

発達段階は、子供期・成人期・老人期の3段階に分けることができます。但しこの分類はあくまでも例の一つ。実は同じ発達心理学の研究であっても、どの発達の側面に注目するかによって発達段階の分類は異なります。上記のように子供期・成人期・老人期と分けるのは、加齢による資源配分の変化に注目した分類。またここでいう資源は、人に与えられている体力や時間などを指します。各発達段階で行われる資源配分は以下のようになっていますよ。

  1. 子供期
    最も多くの機能を獲得することができ、発達が著しい時期。獲得の最大化を目指すこの時期は、主に心身の成長に資源が使われます。子供期の中でも、特に保育と関わりの深い乳児期・幼児期の発達について次の段落で解説していきますよ。
  2. 成人期
    知能などいくつかの機能は、子ども期に引き続き成長を続けます。一方で老化が始まり、機能の衰退が見られ始めるのもこの時期。成人期の人々の資源は、主に機能の維持や喪失した機能の補償に充てられます。
  3. 老人期
    ここまでに獲得した機能のほとんどが衰えていく時期。資源は主に喪失した機能の補償に充てられます。一方で老化に適応するための情動調節や、知識の活用等の機能において向上が見られるのもこの時期。こういった適応的な機能が働くため、この時期の人々の生活における主観的幸福感や満足感は比較的高いことが分かっています。

発達心理学から見た乳時期・幼児期の発達

知覚の発達

知覚は、早い段階から発達が進む機能の一つ。触覚や嗅覚、味覚はなんと妊娠16週目には機能し始めています。次に発達が早いのは聴覚。妊娠20週目までに耳の基本構造が完成し、妊娠8か月頃に音の聞き分けができるようになります。つまり人は胎内にいる時から、自分の身体を触って感覚を確かめたり、音を聞き分けたりして知覚を活用しているのです。一方他の知覚に比べて発達が遅いのが視覚。生まれたばかりの子供の視力は0.01~0.02程度であり、成人と同程度の視力になるまでに3~5年程度かかるといわれています。ピントを合わせる能力や視線を移動させる能力も、あとから徐々に獲得されていきますよ。

言葉の発達

言葉の発達は、下記の三つの能力の相互作用的な獲得を意味します。

  • 言葉を聞き分ける能力
    言葉を聞くことが、言葉を獲得するための第一歩。上記のように聴覚が発達することによって、言葉を構成する音韻への気づきが生まれます。そして音韻への気づきをはじめとして、徐々に母語の音韻の聞き分けに特化していくのです。実は、全ての言語の音韻を等しく聞き分けることが出来るのは、生まれてきたばかりの子供たちだけ。母語の音韻に特化すると同時に外国語の音韻への敏感さは失われていきますが、これも母語の音韻の聞き分けに特化していくための発達の過程です。
  • 言葉を発声する能力
    発声は「アー」「グルグル」といったのどを鳴らすような声(クーイング)からスタートし、生後4~5か月頃には言葉に感じられる音(喃語)を発声することが出来るようになります。また子供が最初に発声した意味のある言葉のことを初語と呼び、この初語は大体1歳になる頃の子供に見られます。
  • 言葉の意味を理解する能力
    上記のように、初語は1歳頃の子供に見られます。つまり1歳になる頃までに、子供は言葉が意味を持っていることを理解するのです。また2歳頃になると3語以上の多語文を話すようになり、3歳になる頃には話し言葉がある程度完成します。こうして言葉を聞いたり話したりする中で、次第に言葉の意味の理解も正確になっていきます。

感情の発達

感情の発達においては、ルイスの研究が有名です。ルイスの研究によると、感情は以下のような順番で獲得されていきます。

出生時苦痛・満足・興味の3つの感情を備えている。
生後3か月頃苦痛から悲しみと嫌悪、満足から喜びの感情が生まれる。
生後6か月頃怒り・恐怖・驚きの三つの感情が加わり、基本的な感情が揃う。
1歳後半頃自己意識が発達する。これによって照れ・羨望・共感といった自己や他者を対象とした感情(自己意識的感情)が生まれる。
2歳半~3歳頃自己意識的感情がさらに発達し、誇り・恥・罪悪感といった自己評価に寄与する感情が発達する。

初めのうちは怒りと悲しみといった類似した感情を混同してしまうことが多くありますが、こうした誤りは徐々に減っていきます。また自らの感情が発達していくにつれて、他者への感情理解も正確になっていきますよ。

愛着形成

ボウルビィとエインズワースの2人の研究者によって基礎が確立された愛着理論。愛着とは、子供と養育者の間に形成される情緒的な結びつきや、信頼関係のことです。生まれたばかりの時は、誰に対しても同じような行動を示す子供たち。愛着の形成が本格的に始まるのは、人を区別する能力を獲得する生後6カ月頃です。次第に愛着対象を識別し、じっと見つめたり、身体的接触も求めたりといった発信行動(※1)を示すようになりますよ。また愛着の形成には個人差がありますが、これは遺伝よりも環境による影響が大きいといわれています。つまり愛着の形成において重要なのは、養育者の子供に対する働きかけです。養育者が子供の発信行動に対して素早い応答を行うことや、積極的な関わりを意識することが愛着形成に好影響を与えますよ。
※1 発信行動…愛着対象の注意・関心を引くための子供の行動

人間関係の発達

上記で解説した愛着形成が行われることによって、子供たちは情緒的な安定を手に入れます。愛着対象である両親や保育士を安全基地として、子供たちは愛着対象以外の他者へと働きかけていくことができるようになるのです。加えて表情や言葉を介した養育者との相互作用は、子供たちが新たに人間関係を構築する際のモデルになりますよ。また友人関係も子供たちの発達に大きく寄与する要素の一つ。問題行動として捉えがちな子供同士のけんかも、他者との関わり方を学ぶための重要なヒントになっています。

発達心理学の研究例【エリクソン・ピアジェ】

エリクソンの心理社会的発達理論(ライフサイクル論)

発達心理学の有名な研究の一つに、エリクソンの提唱した心理社会的発達理論があります。この理論は心の発達過程を8つの段階に分け、それぞれの段階における心の特徴や、発達課題についてまとめたもの。加えて各段階で直面する葛藤があるとし、これを心理社会的危機として提示しています。実は、生涯発達心理学の先駆けとなったのもこの研究。成人期や壮年期、そして老人期までもが発達段階の一部であるという見方は、主にこの理論によって発達心理学に取り入れられました。

ピアジェの認知発達理論

こちらの理論は子供の思考の発達を4つの段階に分けて論じたものです。具体的には下記のように発達段階が分けられていますよ。4つのうち3つの段階の名前に入っている操作という言葉は、論理的な思考という意味を持っています。年齢に応じて新たな視点を獲得し、子供の思考が徐々に秩序立ったものになっていく過程を理解することができますよ。

認知発達理論における発達段階の分類

  1. 感覚運動期(0~2歳)
  2. 前操作期(2~7歳)
  3. 具体的操作期(7~12歳)
  4. 形式的操作期(11~15歳)

エリクソンの心理社会的発達理論とピアジェの認知発達理論は、保育士試験の頻出問題。保育士の方であれば一度は触れたことのある内容ですよね。この機会に是非復習しておきましょう!

発達心理学を保育に生かすには

発達段階に応じて関わり方を変える

時間の経過とともに、めまぐるしく成長する姿を見せてくれる子供たち。この成長を支援するために、発達段階に合わせた保育を行いましょう。例えば、愛着形成が行われる乳児期の子供にはとにかく愛情を与えること。自発性が養われる幼児期には自ら挑戦する機会を与えることが考えられますよ。また保育の際、子供たちの不可解な行動に頭を悩ませることもありますよね。そういった時は子供たちの発達段階を意識することで、適切な対応を取りやすくなります。

発達心理学を保育に生かす際の注意点

発達を複合的に捉える

上記において、乳幼児期の発達を5つの視点からまとめました。一方で今回挙げた5つの視点はごく一部であり、子供たちの心身にはこれ以外にも無数の発達が見られます。またこれらの発達は個別に行われるわけではなく、相互作用して進むもの。よってどの発達も軽視できるものではありません。例えば上記で解説した感情の発達は、人間関係の発達や愛着形成にも影響を与えています。発達に遅れがあるときも、遅れている部分に固執しすぎないようにしましょう。様々な面が相互作用して発達することを意識しながら、包括的な支援を行っていくことが大切です。

発達に個人差があることを前提に支援する

発達心理学においては、年齢に応じた発達の目安が設定されることが多くあります。しかし発達には個人差がつきもの。発達が示された目安通りに進んでいなくても、焦る必要はありません。一方で発達に大幅な遅れが見られる場合、子供の心身に先天的な異常や病気が生じている可能性があります。不安を感じた際は医師や公認心理士、臨床発達心理士などの専門家に相談しましょう。いずれにせよ保育士が発達の個人差を理解し、落ち着いた姿勢で保育を行うことが大切です。

発達心理学から見た発達障害

発達障害とは

発達障害支援法において、発達障害は以下のように定義されています。

発達障害とは「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害、その他これに類する脳機能障害であってその症状が通常低年齢において発現するもの」(発達障害者支援法における定義 第二条より)

このように発達障害は概して脳機能の発達の遅れを指す言葉。また一口に発達障害と言っても、見られる発達の遅れは様々です。次の段落で発達障害の種類について解説します。

発達障害の種類

発達障害は4種類に大別され、それぞれに以下のような特徴があります。また、1人の子供にいくつかの発達障害が生じる場合もあります。

発達障害の種類特徴
①ADHD(注意欠如・多動性障害)・多動性
・注意力散漫
・衝動性
②自閉症スペクトラム障害(ASD)・対人関係の障害
・コミュニケーションの障害
・限定した興味、行動および活動
・言葉の発達の遅れ
③アスペルガー症候群
→②③はまとめて広汎性発達障害と呼ばれる
・基本的に言葉の発達の遅れは伴わない
・コミュニケーションの障害
・対人関係・社会性の障害
・パターン化した行動、興味関心の偏り
④学習障害(LD)・読み、書き、計算といった特定の知能の発達に極端な遅れが見られる

発達障害の子供にできる支援

発達障害は種類によって特徴が大きく異なり、それにより生じる問題も様々。さらに同じ種類の発達障害においても個人差があるため、一人一人に合わせた支援を行う必要があります。また困難やストレスを抱えることが多い発達障害の子供たち。不適切な対応はうつ病などの二次障害に繋がる可能性があります。発達の遅れに対する支援だけではなく、子供たちのメンタルケアにも力を注ぐことが重要です。得意なことを生かせる場面や、楽しみになるイベントを用意してあげましょう。加えて保護者に対する支援も必要不可欠。保育士が発達障害に理解を示し、問題解決に寄り添う姿勢を見せることで保護者の方を安心させることが出来ますよ。

まとめ

発達心理学から子供の心理発達を学ぼう

今回の記事では発達心理学の概要に触れたうえで、中でも保育に関連の深い乳幼児期の発達について詳しく解説しました。今回の記事で紹介したエリクソンの心理社会的発達理論愛着形成発達障害については、当サイト保育士くらぶの記事でより詳しく解説しています。ぜひそちらも合わせてチェックしてくださいね。発達心理学を学ぶことで発達の過程や起こりうる問題を把握し、より良い保育に繋げましょう!

参考文献

 繁多進[監修]/向田久美子・石井正子[編著] 『新 乳幼児発達心理学ーもっと子どもがわかる 好きになる』 (2010) 福村出版
 たまひよ 「赤ちゃんの視力は?聴力は?五感はこう育つ!」 ベネッセコーポレーション 〈https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=26488〉
 無藤隆・若本純子・小保方晶子 『発達心理学 人の生涯を展望する』 (2014) 培風館
 渡辺弥生[監修] (2021) 『よくわかる発達心理学 完全カラー図解』(2021) ナツメ社
 Erikson,E.H. (1950). Childhood and Society.New York: Norton.  Diehl,M.,Coyle,N.&Labouvie-Vief,G.(1996).Age and sex differences in strate-gies of coping and defense across the life-span.Psycology and Aging, 11, 127-139.
 Lewis, M. 1993 The emergence of human emotions. In M. Lewis & M. Haviland(Eds.),handbook of emotions. Guilford Press. 223-225.

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