様々な事柄によって構成される保育環境。保育指導指針では保育の環境について以下のように定義されており、環境を計画的に構成し、工夫して保育を行うことが呼びかけられています。
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“保育の環境には、保育士等や子どもなどの人的環境、施設や遊具などの物的環境、更には自然や社会の事象などがある。”
保育所児童指針‐1章(4)保育の環境より
今回はこの保育環境の中から人的環境を取り上げ、その意味や構成する際のポイントを詳しく解説していきます。環境構成の際は是非参考にしてくださいね。
人的環境とは
子供たちを取り巻く人間関係に関する部分
人的環境は、子供たちを取り巻く人間関係にあたる部分を指します。子供たちが日常的に関わる両親や兄弟、そしてお友達やご近所さん。これらはすべて子供たちの人的環境にあたります。この人的環境は偶発的な出会いに左右されることが多く、コントロールすることは困難。加えて人的環境には、関わる人の持つ価値観やその人がかもしだす雰囲気なども含まれています。物を対象とする物的環境と比べて、子供たちへの影響が分かりにくいのも人的環境の特徴です。
保育士との関わり
保育園において全ての子供たちと深く関わりを持つ保育士。人的環境を構築する際には、この保育士と子供たちの関わりを第一に考える必要があります。もちろん保育園で共に時間を過ごすお友達との関わりも人的環境の一部。しかし子供たちを導いたり、助けたりしてくれるという点で、保育士は友達とは異なる特別な存在です。そして保育士は子供たちが保育園で関わることのできる数少ない大人でもあります。そんな保育士の方は子供たちに対して強い影響力を持っているため、保育園での言動や行動に対して気を配る必要があります。
人的環境が重要な理由
子供たちの心の発達に関わるため
人的環境は子供たちの心の発達に大きく関わるという点で、非常に重要です。大人である私たちも、人間関係に悩んで落ち込んだり、誰かの一言で気分が明るくなったりすることがありますよね。これは私たちの心の状態が、人間関係に左右されていることを表す例です。発達段階である子供たちの心はさらに柔軟かつ繊細であり、人的環境から大きく影響を受けます。人的環境から影響を受ける心の発達について、次の段落で具体的にみていきましょう。
人的環境から子供たちが学ぶこと
信頼関係
信頼関係の意味は文字の通り、互いを信じて頼りあうことのできる関係を指します。そしてこの信頼関係を学習できるかは、子供たちを囲む人的環境に左右されます。時には誰かに裏切られる経験が信頼を学ぶ上での反面教師になることもあるでしょう。しかし信頼を学ぶ上でより大切なのは、子供たちが信頼できる存在を見つけること、そして自分が信頼される経験を積むことですよね。保育士の方はこの信頼関係を子供たちと築けるようにしましょう。子供たちそれぞれを一人の人間として尊重することが、信頼関係の基礎になりますよ。
道徳などの価値観
上記で述べた通り、周りの人の持つ価値観も子供たちにとって人的環境の一部。そして周りの人の価値観は、子供たちの価値観に大きな影響を与えます。これから先の人生において、子供たちは多くの選択を迫られることになりますよね。この選択を行う際に基準となるのが価値観です。つまり、どんな価値観を持つかによって子供たちの人生は大きく左右されます。そして保育士の方も子供と関わる中で意識的に、または無意識のうちに子供たちと価値観を共有しています。子供たちにどのような価値観を共有しているのか、まずは自分自身の価値観について分析してみるのもいいかもしれません。
自分の立場や役割
自分がどんな状況に置かれていて、何をやるべきなのかを意識して動くことは、社会生活において必要不可欠ですよね。保育園に通う子供たちは、すでに家族や友人、クラスなどいくつかの集団に所属しています。子供たちはこの集団の中で自分を客観視する力を養うと同時に、自分の立場や役割を見極めることができるようになっていきます。また、同年代の子供たちが大人数で集まる特殊な集団である保育園。こういった集団は、立場や役割の学習においても重要です。年長さんには役職や仕事を割り振るなど、子供たちが自分の立場や役割を意識する場面を用意することも大切です。
保育園における人的環境
クラス制度
クラス替えは、子供たちの人的環境が大きく変化する数少ない機会です。今まで仲良しだったお友達と離れてしまうこともあり、子供によっては大きなストレスを感じることもあるでしょう。一方で、クラス替えは子供たちが新しい人間関係を形成するチャンスでもあります。クラス替えのような環境の変化がないと、子供たちの交友関係は固定されてしまいがちですよね。乳児期、幼児期の子供たちには色々な人との関わり方を学ぶことが大切です。クラス替えを行って、定期的に新しいお友達と関わることのできる機会を作りましょう。
育児担当制
多くの保育園で、低年齢のクラスに取り入れられている育児担当制。この時期の子供たちは乳児突然死症候群になりやすかったり、感染症のリスクが高かったりと非常にデリケートですよね。そういった安全面への配慮として育児担当制は重要ですが、目的はそれだけではありません。生まれてから数年は、心の安定の基礎となる愛着形成が行われる時期。そしてこの愛着形成が、上記の信頼関係にも関わってきます。この時期の子供たちには安心できる存在を見つけ、そしてその存在から継続的に愛情を受け取る愛着形成が必要不可欠。この愛着形成を行う上で、毎日同じ保育士が育児に関わる育児担当制を導入することが求められます。
たてわり保育
年齢の違う子供たちと関わる機会をつくるたてわり保育。たてわり保育は、主に立場や役割の学習に効果的です。たてわり保育において子供たちは、同年代の子供たちと生活する中では感じることの少ない発達段階の違いを体感します。その中で上の年齢の子供たちが学習するのは、自分がお姉さんやお兄さんとして振る舞うこと。また下の年齢の子供たちは、上級生に引っ張っていってもらう心強さを経験することでしょう。これは学校生活における先輩後輩、仕事における上司部下の関係に繋がります。
園外保育
園外保育は、地域の人々と関わることのできる貴重な機会。通りかかる人に挨拶をしたり、周囲の人々に対して配慮をしたりすることを学びます。そして、その際一番の見本となるのは保育士さん。地域の人々と温かい関係を築くことを意識しましょう。地域社会の繋がりが希薄になりつつある現代。園外保育では子供たちに社会の規範を学んでもらう一方で、子供たちと地域の会話が生まれるきっかけにもなりますよ。
保育士が気を付けるべきこと
感情的に叱らない
保育士の方が感情的に叱ることは、子供たちを委縮させることにつながります。子供たちを委縮させてしまうことは、信頼関係を築くうえでは障壁になってしまいますよね。もちろん命の危険が伴う場合など、反射的に叱るべき場面も少数あります。しかしその他の場合は感情を一度おいて、なぜいけなかったのかを諭すように叱ることを心がけましょう。保育士の方が冷静に注意することで、子供たちを委縮させてしまうことを防ぐと同時に、子供たちに冷静に注意を聞いてもらうこともできます。
使う言葉を選ぶ
子供たちは保育士の方が使う言葉にとても敏感。周囲の大人が発する言葉をよく聞き、一つでも多く言葉を獲得しようとしているためです。そのため、保育士の方がもつ語彙はそのまま子供たちの語彙の一部になります。子供たちに真似されると困るような、若者言葉や乱暴な言葉はもちろんNG。また否定的な言葉や、容姿について触れるような言葉は子供たちを傷つけてしまう恐れがあります。こちらもなるべく控えるようにしましょう。代わりに、褒める言葉など肯定的な言葉をかけてあげてくださいね。
子供の話を聞く
特別な存在である先生が、自分にきちんと向き合ってくれたという経験。これは子供たちの記憶に残る重要な経験です。そしてこの経験は保育士の方への信頼や、子供たちの自尊心の向上につながります。とはいえ、ただでさえ忙しい保育園の一日において、子供一人一人と向き合う時間をとることは難しいですよね。子供たちが特に会話を求めている場面は、けんかで主張がぶつかり合っているときや、保育士の方に話しかけてくれるとき。この場合はできるだけ時間をとってあげてください。
子供の年齢に合わせた適度な距離感を保つ
発達段階によって、子供たちと保育士の適切な距離は大きく異なります。上記のように乳児の時にはつきっきりで保育するのが望ましい子供たちですが、3歳頃になるとある程度距離を置いて見守ることが求められます。これは3歳を超えた子供たちの多くが、愛着対象との身体的な触れ合いがなくても情緒的な安定を保てるようになるからです。さらにこの時期は自立心が芽生え始める時期。子供が一人で苦闘しているとついつい手伝いたくなることがありますよね。しかし年齢を重ねると子供たちは一人でできるようになることに価値を置くようになります。この時はある程度距離を置いて見守ってみましょう。子供の発達段階に合わせて子供たちとの距離の取り方を変えることが大切です。
人的環境をより良くするためには
保育士同士の関係を良好に保つ
子供たちに影響を与えるのは、保育士の方とのコミュニケーションだけではありません。保育士同士の関係性に対しても、子供たちは敏感です。子供たちがくつろぐことのできる空間を作るために、保育士同士の温かい関係を構築することを目指しましょう。特に立場が上にある園長などの役職についている方は、園内の人間関係強い影響力を持ちます。保育士間のやり取りなどに注意を払って雰囲気のいい環境づくりに努めましょう。
保護者との連携を大切にする
保護者と保育士のコミュニケーションも大切です。保育士同士の関係と同様、保護者とも信頼関係を築く必要があります。子供たちにとって、どちらもかけがえのない存在である両親と保育士。両者が連携して子供たちを見守ることが、子供たちの安心につながります。保護者も参加するイベントや送り迎えの際の挨拶、またおたよりなどは、保護者と親睦を深めるチャンス。積極的にコミュニケーションを取りましょう。
児童心理を学ぶ
子供たちとの適切な関わり方について、心理学から学ぶこともできます。特に教育心理学や、発達心理学といった分野は、環境構築の際にとても参考になりますよ。加えて保育士になるまでの過程を、今一度復習してみるのもいいでしょう。また当サイト保育士くらぶにおいても、アドラー心理学や愛着形成など、心理学について触れた記事を投稿しています。こちらもぜひチェックしてみてくださいね。
まとめ
人的環境を整えて健やかな心を育もう
保育園において、子供たちにとって主な人的環境は保育士の方との関わりです。そのため保育士の方には、子供たちの精神的な支えとなることや、お手本として振る舞うことが求められます。ただ、保育士の方があまり気負う必要はありません。子供たちが人的環境から学ぶこととして信頼関係や価値観などを挙げましたが、これらは生涯変化していくものです。子供たちの前での間違いを恐れるよりも、どんな大人になってほしいかというポジティブな姿勢で向き合うことを大切にしましょう。ぜひ今回の記事を参考にして人的環境を整え、子供の健やかな心の発達に繋げてくださいね。
よくある質問
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