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保育士の皆さんこんにちは!保育士クラブ編集部です。
乳幼児期というのは,子どものこれからの人生を形作るうえでの基礎となるとても重要な時期です。
そのような重要な時期に子どもが生活時間の大半を過ごす保育所での保育にはとても大きな役割と責任があります。
保育士さんは「保育所保育指針」をもとに,子どもの発達状況や特性に応じた用語・養育をする必要があります。
「保育所保育指針」には,1~3歳の乳幼児の養育を行うにあたっての保育・教育目標を5つの領域で示した「5領域」というものがあります。
では,「5領域」とは具体的にどんなものなのでしょうか?
今回は,「5領域」の内容と,さらに子どもに基本的な力を身に着けてもらうのに有効な保育で取り入れたい働きかけ・遊びについて紹介していきたいと思います!
5領域とは?
5領域とは,
「保育を行う上での目標を5つの領域に分類したもの」
です。
「保育所保育指針」の中の「1歳以上3歳未満児の保育に関わるねらい及び内容」の項目で示されており,
- 「健康」:心身の健康に関する領域
- 「人間関係」:人との関わりに関する領域
- 「環境」:身近な環境との関わりに関する領域
- 「言葉」:言葉の獲得に関する領域
- 「表現」:感性と表現に関する領域
の5つを指し,それぞれにねらいと内容が設定されています。
以上の5つの領域は,それぞれが独立しつつも相互に関連しあいながら子どもの発達の基盤を形作っていきます。
保育所での指導も「5領域」をもとにして行うことで,子どもの心身の総合的な発育が期待できます。
各領域についての具体的な内容
以下では,それぞれの領域の「ねらい」と具体的な「内容」を説明していきたいと思います。
健康
「健康」領域では,
- 健康な心と体を育て、自ら健康で安全な生活をつくり出す力を養う
ことが目標となっています。
ねらいと内容は以下のようになっています。
【ねらい】
① 明るく伸び伸びと生活し、自分から体を動かすことを楽しむ。
② 自分の体を十分に動かし、様々な動きをしようとする。
③ 健康、安全な生活に必要な習慣に気付き、自分でしてみようとする気持ちが育つ。
(保育所保育方針より)
【内容】
① 保育士等の愛情豊かな受容の下で、安定感をもって生活をする。
② 食事や午睡、遊びと休息など、保育所における生活のリズムが形成される。
③ 走る、跳ぶ、登る、押す、引っ張るなど全身を使う遊びを楽しむ。
④ 様々な食品や調理形態に慣れ、ゆったりとした雰囲気の中で食事や間食を楽しむ。
⑤ 身の回りを清潔に保つ心地よさを感じ、その習慣が少しずつ身に付く。
⑥ 保育士等の助けを借りながら、衣類の着脱を自分でしようとする。
⑦ 便器での排 泄 に慣れ、自分で排泄ができるようになる。
(保育所保育方針より)
人間関係
「人間関係」領域では,
- 他の人々と親しみ、支え合って生活するために、自立心を育て、人と関わる力を養う
ことが目標となっています。
ねらいと内容は以下の通りです。
【ねらい】
① 保育所での生活を楽しみ、身近な人と関わる心地よさを感じる。
② 周囲の子ども等への興味や関心が高まり、関わりをもとうとする。
③ 保育所の生活の仕方に慣れ、きまりの大切さに気付く。
(保育所保育方針より)
【内容】
① 保育士等や周囲の子ども等との安定した関係の中で、共に過ごす心地よさを感じる。
② 保育士等の受容的・応答的な関わりの中で、欲求を適切に満たし、安定感をもって過ご す。
③ 身の回りに様々な人がいることに気付き、徐々に他の子どもと関わりをもって遊ぶ。
④ 保育士等の仲立ちにより、他の子どもとの関わり方を少しずつ身につける。
⑤ 保育所の生活の仕方に慣れ、きまりがあることや、その大切さに気付く。
⑥ 生活や遊びの中で、年長児や保育士等の真似をしたり、ごっこ遊びを楽しんだりする。
(保育所保育方針より)
環境
「環境」領域では,
- 周囲の様々な環境に好奇心や探究心をもって関わり、それらを生活に取り入れていこうとする力を養う
ことが目標となっています。
ねらいと内容は以下の通りです。
【ねらい】
① 身近な環境に親しみ、触れ合う中で、様々なものに興味や関心をもつ。
② 様々なものに関わる中で、発見を楽しんだり、考えたりしようとする。
③ 見る、聞く、触るなどの経験を通して、感覚の働きを豊かにする。
(保育所保育方針より)
【内容】
① 安全で活動しやすい環境での探索活動等を通して、見る、聞く、触れる、嗅ぐ、味わう などの感覚の働きを豊かにする。
② 玩具、絵本、遊具などに興味をもち、それらを使った遊びを楽しむ。
③ 身の回りの物に触れる中で、形、色、大きさ、量などの物の性質や仕組みに気付く。
④ 自分の物と人の物の区別や、場所的感覚など、環境を捉える感覚が育つ。
⑤ 身近な生き物に気付き、親しみをもつ。
⑥ 近隣の生活や季節の行事などに興味や関心をもつ。
(保育所保育方針より)
言葉
「言葉」領域では,
- 経験したことや考えたことなどを自分なりの言葉で表現し、相手の話す言葉を聞こうとする意欲や態度を育て、言葉に対する感覚や言葉で表現する力を養う
ことが目標となっています。
ねらいと内容は以下の通りです。
【ねらい】
① 言葉遊びや言葉で表現する楽しさを感じる。
② 人の言葉や話などを聞き、自分でも思ったことを伝えようとする。
③ 絵本や物語等に親しむとともに、言葉のやり取りを通じて身近な人と気持ちを通わせる。
(保育所保育方針より)
【内容】
① 保育士等の応答的な関わりや話しかけにより、自ら言葉を使おうとする。
② 生活に必要な簡単な言葉に気付き、聞き分ける。
③ 親しみをもって日常の挨拶に応じる。
④ 絵本や紙芝居を楽しみ、簡単な言葉を繰り返したり、模倣をしたりして遊ぶ。
⑤ 保育士等とごっこ遊びをする中で、言葉のやり取りを楽しむ。
⑥ 保育士等を仲立ちとして、生活や遊びの中で友達との言葉のやり取りを楽しむ。
⑦ 保育士等や友達の言葉や話に興味や関心をもって、聞いたり、話したりする。
(保育所保育方針より)
表現
「表現」領域では,
- 感じたことや考えたことを自分なりに表現することを通して、豊かな感性や表現する力を養い、創造性を豊かにする
ことが目標となってます。
ねらいと内容は以下の通りです。
【ねらい】
① 身体の諸感覚の経験を豊かにし、様々な感覚を味わう。
② 感じたことや考えたことなどを自分なりに表現しようとする。
③ 生活や遊びの様々な体験を通して、イメージや感性が豊かになる。
(保育所保育方針より)
【内容】
① 水、砂、土、紙、粘土など様々な素材に触れて楽しむ。
② 音楽、リズムやそれに合わせた体の動きを楽しむ。
③ 生活の中で様々な音、形、色、手触り、動き、味、香りなどに気付いたり、感じたりし て楽しむ。
④ 歌を歌ったり、簡単な手遊びや全身を使う遊びを楽しんだりする。
⑤ 保育士等からの話や、生活や遊びの中での出来事を通して、イメージを豊かにする。
⑥ 生活や遊びの中で、興味のあることや経験したことなどを自分なりに表現する。
(保育所保育方針より)
それぞれの領域での目標を達成するのに有効な子どもへの働きかけ
健康
【身体を動かす機会を確保し,運動する意欲がわくように工夫する】
子どもの健康のためには,運動が欠かせませんので,体を動かしてもらうような働きかけを行うことはとても重要です。
「体を動かすと気持ちがいいよ。」「運動しなきゃダメだよ。」などと言葉で言い聞かせるのではなく,
・先生がまず体を動かして見本を見せる
・「遊び」や「競争」などのゲーム要素を取り入れる
などを行い,子どもに「自分にもできそう」「楽しそう」と思わせてあげることで,運動するモチベーションを掻き立てるように工夫するのがとても有効です。
【子どもが自分から進んで食べるように工夫する】
健康な心身を作るために,望ましい食習慣を形成することはとても重要なことです。
子ども一人一人の成長・発達の程度,好き嫌いは異なるので,子どもの普段の状態を注意深く観察しながら,それぞれに合った対応を行う必要があります。
よい食習慣を育んでもらうために大事なのは,強制するのではなく「子供が自分から進んで食べるように工夫すること」です。
主体的に食べる子どもになってもらうためには,
・遊びや運動を十分に行い,「空腹感」を持たせる
・先生や仲間と一緒に食べることで信頼感を形成し,食事の楽しさを知ってもらう
・食料の調理・栽培・収穫の家庭に触れさせることで,食べ物に対する愛着を持たせ,好きな食べ物を増やしていく
・食事について話題にしたり,本・動画などを見せることで,食に対する関心を持ってもらう
などが有効だと考えられます。
【基本的な生活動作は一人一人の状況に応じて少しずつ慣れさせる】
生活に必要な習慣についても,子どもによってその進み具合が異なってくるので,一人一人の状態に応じて落ち着いた雰囲気の中で身に着けていく必要があります。
生活動作については,子どもが家庭でどのように生活しているのかと言うこととも密接に関連しているので,
・親御さんと情報共有を行う
・家庭でのやり方も考えたうえで指導を行う
・問題があれば家族の方にアドバイスを行う
などで,家庭と連携した養育行っていくことが大切だといえるでしょう。
人間関係
【自分でやりたい気持ちを尊重する】
子どもが積極的に人と関わっていけるようになるためには,子どもが主体的にする行動を認めて,それに対してちゃんと反応を返してあげることが重要です。
そうすることで,子どもは自分の承認欲求が満たされ「周りの人に関心を持ってもらえている」と思うようになり,周囲の人間に興味を持ち始めます。
自分でやりたいと思う気持ちを尊重してあげることで,結果的に他人に対して関心を持ち,主体的に他人と関わって行動する意欲が芽生えるのです。
【感情を受け止める】
幼児期の子どもは,うまくいかないことがあると感情が不安定になることがよくあり,それによって周りの子どもたちとトラブルになってしまうかもしれません。
そのような場合には,先生が「○○くんはどう思うか話してみて?」「つらかったね。」などというように子どもの気持ちをまず受け止めて共感してあげましょう。
そうすることで,子どもは冷静になり「自分が今どう思っているのか・どうしたいのか」ということに気が付いて問題が解決するかもしれません。
周囲と良好な関係を築くにあたって必要な感情のコントロールを身に着けてもらうためにも,まずは保育士さんが子どもの感情を受容してあげることが重要です。
【気持ちの伝え方を教えてあげる】
幼児期の子どもは,自分が思っていることと他人が思っていることの違いの認識が十分ではありません。
そこで,友達との意思疎通を良好にするために,保育士さんが適度に仲介をしてあげることも重要です。
「○○ちゃんはこうしたいと思っているけど△△くんはどうしたいの?」「こう言ったらちゃんあの子にとわかってもらえるんじゃない?」などというように,
・子どもの気持ちを代弁する
・相手の気持ちに気づくことの大切さを教える
・理解してもらえる伝え方を教える
ことで,周りの人たちとどう関わっていけばいいのか気付きを促すことができます。
環境
乳幼児は周囲の様々な物事に関心を持ちます。
好奇心や探求心が旺盛な時期に自然と触れ合ったり,様々な遊びを体験させてあげることで心身の感覚が発達し,色々なことに対する気づきを促すことができます。
周囲の物事に関心を持ち,学習意欲の高い子に育ってもらうためには,
・発達の状態に応じて適切なおもちゃ,絵本,遊具などに触れさせる
・周囲の自然や生き物と触れ合う機会を作る
・様々な活動を通して,子どもが何に興味があるのかと言うことを見極める
などが効果的です。
言葉
言葉は周囲の「環境」への関心や「人間関係」との関わりの中で発達していくと考えられるので,それらの項目で述べた働きかけを組み合わせて行うことで言葉を引き出すことができると考えられます。
・絵本や物語,遊びなどを通して周囲の物事や人に対する興味・関心を喚起する
・子どもからの働きかけには応答的に答えてあげ,先生からも適宜子どもに話しかける
・他人に関心を持ってもらうことで,人の話を聞く姿勢を養う
・経験や感情を言語化できるように手助けをする
以上を心掛けることで,次第に言葉を獲得する土台を築いていくことが期待できます。
言葉の発達には個人差があるので,その程度に応じた働きかけを心掛けるといいでしょう。
表現
考えや感じたことを豊かに表現するためには,様々な体験をすることで感情や感覚を刺激し,感性を養っていく必要があります。
また,「表現」と言ってもその方法は様々なものが考えられ(言葉,表情,体の動き,制作,歌など),人によって何で表現するのか,どう表現するのかも異なります。
そのため,「表現」を向上させるためには,
・様々な物事や遊びを体験させる
・日常の些細なことに対する気づきを促す
・子どもをよく観察し,何に興味があって心を動かされるのかを把握する
・子どもなりの表現方法があることを理解し,些細な表現であってもそれを認めてあげる
・他の子の表現に触れさせたりすることで,様々な表現方法があることを教えてあげる
などを心掛けておくといいでしょう。
子どもが自分から意欲的に表現できるような働きかけ,環境づくりを行うようにしましょう。
5領域での目標を達成するのに適した遊びについて紹介!
ごっこ遊び
5領域に基づいた遊びとしてまず挙げられるのが「ごっこ遊び」です。
ごっこ遊びは想像力,社会性,言語能力,実行力・問題処理能力などの向上が見込まれる遊びで,楽しみながら5領域での目標に近づいてもらうことが可能です。
ごっこ遊びの例としては,
- お店屋さんごっこ
- ままごと
- 先生ごっこ
- キャンプごっこ
- 屋台ごっこ
などがあり,その他にも様々なものがあります。
保育士さんの考え次第でバリエーションがいくつも考えられることも,ごっこ遊びの面白さかもしれませんね。
フルーツバスケット
フルーツバスケットも5領域を取り入れた遊びとして考えられます。
この遊びも,体を適度に動かしながら人とのやり取りやルールなどについて学ぶことができるので,5領域の目標を達成するのに適した遊びだということができるでしょう。
5領域をカバーする遊びを考えるにあたっては,以下のことを心掛けておくといいでしょう。
✓ 適度に体を動かすようにする
✓ 皆で協力・役割分担できるようにする
✓ 身の回りにあるものを取り入れる
✓ 子ども同士が言葉でコミュニケーションを取れるようにする
✓ 子どものアイデア・想像力を引き出すように働きかける
5領域に基づいた遊びとは言っても,「○○領域を取り入れなくちゃ…」などというように厳密に考える必要はありません。
普段何気なくやっている遊びが5領域に繋がっていたりするので,まずは「この遊びは何の力が身につくんだろう…」などというように5領域の視点から遊びを考えてみるのがいいかもしれませんね。
「10の姿」「3本の柱」との違い・関係は?
「5領域」と関連した言葉として,「10の姿」「3本の柱」というものがありますが,それらはどう関係しているのかわからないという方は多いのではないでしょうか。
そこで,この項では「10の姿」「3本の柱」についても簡単に解説していこうと思います。
「10の姿」との違い
「10の姿」とは,
「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」
のことを指します。
これは,「5領域」のような到達すべき目標ではなく,実際の保育現場で取り出して指導するものではありません。
「10の姿」とは,子どもにはこう育ってほしいという理想を表したものです。
そして,「5領域」とは,「10の姿」という理想に近づくための具体的な目標のことであり,両者の違いの一つとして実践的であるか否かということが挙げられます。
なので,保育士の皆さんが実際に指導を行うにあたって「指導計画」を作る際には,「5領域」を参考にすればいいのです。
「5領域」に即した指導を行えば自ずと「10の姿」に近づくことができるので,後者についてはそれほど難しく考える必要はないかと思われます。
「3本の柱」との違い
「3本の柱」とは,
「保育所保育で育みたい資質・能力」
のことで,具体的には
- 知識及び技能の基礎
- 思考力、判断力、表現力等の基礎
- 学びに向かう力、人間性等
の3つのことです。
「3本の柱」は,「5領域」での実践を通して身に着けられる基本的な資質・能力のことなので,こちらについても実際に個別に取り出して指導するものではありません。
「5領域」に即した指導を行うことで総合的に育まれる力のことが「3本の柱」であり,両者の違いは「実践」か「実践を通して身につく力」かどうかと言うことになります。
それぞれの関係性
それぞれの関係性を図で示すと以下のようになります。
「5領域を実践して目標を達成することで,自ずと3本の柱が育まれて10の姿という理想に近づくことができる」というのが3者の関係性です。
ですので,保育士の皆さんは5領域に即した指導を行えばよく,その他2つを「指導計画」に組み込んで実践する必要はありません。
まとめ
今回は,「5領域」について,その具体的な内容と目標を達成するために有効な働きかけや遊びについて紹介してきました。
また,「10の姿」や「3本の柱」との違いや関係性についても解説しました。
大事なのは,「5領域を取り入れて○○しなくちゃ」と思うのではなく,「この活動は5領域のどれに当てはまるだろう」という視点を持つことです。
普段行っている保育活動が5領域のどれを達成するのに役立っているのか是非考えてみてくださいね!